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中国SF映画「流浪地球(the wandering earth)」 レビュー(軽くネタバレするのでご注意)

 中国のSFファンにとって、今年の旧正月(2月5日)は劉慈欣の小説にアレンジした映画「流浪地球(彷徨える地球)」の大ヒットで、いつもより賑やかだった。

 旧正月は中国の映画市場にとって最も稼げる、競争も最も激しい時期である。こんな時期に上映した「彷徨える地球」は中国初の本格SF映画として、今日(3月3日)までの興行収入は45億人民元(約751億元)を超えて、中国映画興行収入ランキングの第二位になった。

 商業的な成功だけじゃなくて、「彷徨える地球」の評価もハリウッドの量産型SF映画に負けないレベルに達した。中国で影響力の一番高い映画レビューサイト「豆瓣(douban)」では、彷徨える地球は7.9/10の高いスコアをもらった。参考として、大ヒットだったパニック映画「2012」は7.8/10をもらった。

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中国のサイトによる評価である。彷徨える地球は86%のSF映画より高いスコアをもらった。

 「彷徨える地球」は海外市場を狙わなかったが、一応北米にも上映した。IMDbで7.4/10、rotten tomatoesで77%のスコアをもらった。国内外による評価は「2001年宇宙の旅」などのハリウッドSF傑作にまだ劣っているが、中国初の本格SF映画として、この成績は優秀とも言えるんでしょう。

 日本の映画館に上映する見込みはないが、ネットフリックスによる配信はもう決まっているので、皆さんどうかお見逃しなく。

 これからは僕による「彷徨える地球」に対するレビューだ。

 中国のSF小説の歴史は1900年まで遡ることができるが、SF映画の歴史なら、せいぜい30年ぐらいしかない。しかも「彷徨える地球」以前の中国SF映画は子供向けの作品と全く観る価値のない糞作しかないといってもいい。「三体」のヒットに伴い、中国SFも海外に段々人気になっているが、我々中国のSFファンは恥を隠すため、いつも「中国にまだSF映画がない」と嘘をついている。

 ゆえに、「彷徨える地球」の成功は決して一本の映画の成功、或いは数人の俳優や一人の監督の成功だけじゃなくて、中国SF映画全体にとっても大々的に祝うべきな成功である。

 

WARNING:これからネタバレが入っている。

 

 「彷徨える地球」の魅力と特徴は、以下だと思う。

 1、国際主義。

 アメリカの映画では、世界を救うのはアメリカ人、手伝うのは日本人、悪役はロシア人、中国人またはムスリムであることはもはやお約束になっている。さらに、アメリカの監督たちは米軍の協力を得るため、多かれ少なかれ、アメリカの愛国主義プロパガンダを映画に入れることも珍しくない。他の国の映画ファンはこれについてどう思うのが知らないが、いつも映画に敵役にされて、或いは無視される中国人にとって、これは決して自然ではない。

 しかし「彷徨える地球」はアメリカの民族主義と偏見の影響を全く受けていない、世界を救うのは中国人だけはなく、ロシア人、フランス人、日本人、イスラエル人などの全世界の人々である。さらに、映画に各国籍の人々は無理やりに下手くそな英語または中国語を喋っているじゃなくて、ちゃんとした母国語を喋っているところが気に入る。
 例えば、最後の救援任務が失敗し、地球が滅びて行くシーンでは、すべての人が希望を失ったとき、日本の救援隊隊員が自殺する前に「味噌汁を飲みてえなあ、ご飯があれば文句ねえ」と言った。僕はこのシーンのえぐさに胸が震えた。このシーンを永遠に忘れない。実際に映画を観てみたら、日本人の皆さんもこの短いシーンの魅力を分かってくれるんでしょう。

 2、集団主義

 ハリウッド映画のもう一つのお約束は、世界を救うのは必ず一人のアメリカ人中年男性と彼のチームメイトである。別に個人的なヒロイズムがダメというわけではないが、最近こういう映画あまりにも多いから、もうドウェイン・ジョンソンを見ただけでも吐きたいぐらいになった。

 しかし、「彷徨える地球」では、世界を救うのは一人や一つのチームではない。前にも言ったように、全世界の協力である。主人公のチームはむしろ映画の最終段階までずっと役に立っていなくて、救援過程の記録者として存在している。最終段階の救援でも、救援のアイデアを思いついたのは主人公チームだけじゃない、イスラエルの専門家も数時間前に同じアイデアを思い付いた。そして、もし主人公チームの呼びかけを応じて助けてくれた他の救援隊がなかったら、最終段階の救援も実現できないでしょう。ハリウッド映画に同じレベルな集団主義精神を表しているのは、「ローグ・ワン」だけだ気がする。

 3、ソ連美学の復活。

 インタビューの際に、監督さんは「彷徨える地球」の美学のインスピレイションはソ連美学であると言った。その原因は中国の美学にとって、工業社会の美がまだ外来的なもので、中国人にとって、最も親しい工業的な美はソ連美学である。

 中国の最初の大学、最初の展覧館、駅、橋、軍事装備、工業設備は全部ソ連に学んだものである。今の中国ではソ連美学が消え去っているが、その影響力がまだ充分残っている。

 映画に車や飛行機などのデザインも確かに、ソ連のMAZ(ミンスク自動車工場)やアントノフ設計局の風格を鮮明に継いでいる。さらに、地球を推進する重融合エンジンという技術も、結構ソ連っぽいだと思う。重融合とは鉄、シリコンなどの地殻を構成する重元素を利用して核融合を行う技術である。重融合エンジンの燃料は地殻、即ち石そのものだ。掘った石を燃料として核融合を行い、地球を推進するほどきちがいアイデアは、核兵器人造湖を作るソ連に非常に似合うと思わないか。

 4、量産型ハリウッドSF映画のレベルの画面。

 これが魅力としてアピールできるかと思うかもしれないが、まずアメリカ以外の国の映画にとって、このレベルの画面を実現には結構難しいだと思わないか。まして「彷徨える地球」のコストは5億人民元(約83億円、7500万米ドル)に過ぎない、今のハリウッド映画と比べたら、もうB級映画とも言えるんでしょう。

 「彷徨える地球」の予告編はユーチューブにも観えるが、残念ながら制作チームが経験不足だったかもしれないが、予告編はこの映画の最も迫力のあるシーンをほぼ全部避けた。

 もちろん、この映画にもまだまだ未熟なところがある。コストが低いので、この映画に新人俳優を使わなければならなかった。新人俳優たちの演技はどうしても少し違和感を感じる。映画が製作していた途中に、一つ重要な投資者が急に撤退したのせいで、この映画が難産しかけた。幸い、この映画の主役となる呉京さんは自分の給料を要らなかった上、数千万人民元の資金を投資した。そのおかげで、映画がようやく完成したが、新たな投資で製作した部分にはちょっと音声と画面が合わない部分が残っている。最後、そして最も致命的な問題は、旧正月のきつい上映スケジュールに合わせるため、もともと2時間半長さの映画は2時間にカットされた。そのせいで、脇役の物語と伏線は十分に展開する時間がなく、ちょっとわかりづらかった。

 「彷徨える地球」は中国SF映画の真なる起点であり、種でもある。この小さな種は投資者に「SF映画は中国で稼げる」、創作者に「SFとパニック映画は中国の審査に通れる」、SFファンに「中国SF映画は観る価値がある」の希望を齎した。

 この小さな種はいつかハリウッドのような巨樹になれるように願う。